「知らないうちにはじまっていて、いつ終わるのかわからない」展

2024.10

千葉市美術館の「つくりかけラボ」というスペースで2024年10月12日~2025年1月26日まで開催された金川晋吾さんによる「知らないうちにはじまっていて、いつ終わるのかわからない」展の空間構成を担当した。

「つくりかけラボ」はその名の通り「つくりかけ」な場であり、オープニング時点で展示が完成しているわけではなく期間中ずっと変容していく。ただ、「つくりかけ」をどう捉えるかはアーティストに委ねられている。
今回が16回目ということで既にたくさんのアーティストによる実験的な試みがなされてきたが、今回の金川さんの展示は今までで一番作家自身が「なにが起こるかよくわからない」ことを扱おうとしていると感じた。それはタイトルにも、作家のステートメントにも現れていた。

金川さん自身もわかっていない事象を他のワークショップ参加者(金川さんと同列の“作家”と言い換えても良い)及び一般来場者とともに「一緒に考えていきたい」というスタンスだったので、空間自体も不定で変容できるものにしようと考えた。会期中どの方向に転がっていっても適応し、そこで生まれた事象を受けとめたかった。

片面が白い展示面、逆面が棚となっている幅2.7m×高さ2mのキャスター付きの可動展示壁を7台製作し、白い面は金川さん+6人のワークショップ参加者が一人一つ使って作業し、それがそのまま展示となるようにした。会期の初日は白い面は何も手の付けられていないまっさらな状態(金川さんの面だけ先行して展示されていた)でスタートし、ワークショップの実施を経て少しずつ写真が貼られ文字が書き込まれていった。
背面の棚は金川さんが参考図書を置いたり、一般来場者が各展示に対するメッセージを投函できる箱を置いたりした。
7台の配置は、当初は“通常時とワークショップ開催時で面の向きを変えてモードチェンジする”ということだけを決めていたが、期間中ワークショップが進むなかで金川さんから「来場者が7人の参加者の展示面と向き合えるような空間にしたい」という提案があり、レイアウトを大きく変えた。

一言でいってしまえば「自分の写っている写真を並べ、それらについて語りたいことを文章で記述する」という展示となった(その言葉だけでは語り切れないたくさんの事柄が展示会場には存在していた)が、かなり踏み込んで自己開示した参加者もおり、そういった言葉をひきだすための親密な空間をつくることと、そういった言葉と来場者が一対一で向き合う空間をつくることの両立を、モードチェンジできる可動展示壁によって支えることができたと考えている。

用途:展示空間
工事種別:
設計期間:2024年6〜10月
施工期間:2024年10月
主体構造:
階数:
延床面積:
所在地:千葉県千葉市(千葉市美術館4階 つくりかけラボ)
写真:天野祐子(1枚目、15~29枚目)、細谷悠太建築設計事務所(2~14枚目、30枚目:写真右下に※)