開かれた平屋と守られた離れ

2022.06

マイホームの設計を建築家に頼むのはハードルが高いと感じる一般人が多く、その結果、ハウスメーカーで戸建てを買うという現在の住宅市場が生まれている。そのハードルを下げるために「建売り」として建築家住宅を販売したい、という事業主からの依頼であった。

敷地は小学校の目の前で視界の開けた場所であったが、一方で三角形平面の敷地かつ全面道路が斜面となっている角地という事業者にとってはそのまま持っていても高額では売りにくいような、こういった挑戦にはちょうど良いなと思わされる場所であった。

郊外に戸建て住宅を買う一番のメリットは、グランドレベルと地続きで生活できることだと考える。広々とした庭を持てることや、夏の日中に窓を閉め切っていたとしても枝葉がそよぐことで風を感じられる生活に憧れを抱く人は多いだろう。

一方で、地続きだからこそ感じる不安も多い。視線の問題や空き巣などを恐れて戸建てを選ばない方や、戸建てでも堅牢な外壁+中庭という形式を選ぶ方もいる。

そこで玄関から続く通り土間を境に二つの棟を建てる計画とした。庭と一体的なリビング棟(開かれた平屋)と、ユーティリティーと寝室のある二階家(守られた離れ)である。「通り土間のある平屋」と同様の形式であるが、二つの棟の性格をより明確化した。

守られた場所をしっかりと計画することで、開かれた場所をより開くことができると考える。人を呼ぶ際にも、空間が分節されていれば一番のプライベート空間に立ち入られる恐れがなく安心である。

家族間でも、それぞれがお互いを必要以上に気にしなくて良いのは心地いい。子どもが寝静まってからお父さんが帰ってきたときや、日中のリモートワーク中に子どもたち同士で遊んでいるときなど、音も匂いも互いに気にならないというのはとても快適だ。

「開く」と「閉じる」を共存することで、一つの家の中にいくつもの生活リズムを許容できると考えた。