蔵の中の回廊

2017.10

 長きにわたり「開かずの蔵」となっていた土蔵を寝泊り可能なセカンドハウスに変えるプロジェクトである。

まずクライアントと共に蔵の中に溜め込まれていた沢山の荷物を整理し、蔵を解放する作業を始めた。そして2階に貼られていた床板を全て外し(板厚から構造的には効いていないことがわかった/相当に傷んでおり少し荷重を掛けたら踏み抜いてしまいそうな部分もあるような状態だった)、既存の土蔵を大きなシェルターの状態にした。
この作業を行う中で、「既存を最大限尊重しよう」と思った。

一つは、これだけの歴史ある土蔵がそのまま残っていることがまず貴重であるし、2階壁面は仕上げているが1階壁面は土壁が仕上げられずにそのまま現れているのも珍しく、これらを(意匠として)見せたいと感じたためである。

もう一つは、土蔵は建物外周部の土壁が構造体となっていており、地震などの緊急時にはその土が壁から剥がれ落ちることで揺れを吸収するのだが、この構造体である土壁を封じ込めるのではなく解放し、いつでもその様子がわかることで、建物の状態を使い手が把握することが建物を維持していくために最善と考えたからだ。

そして、蔵の中にたたずんでいたら直感的に、長い歴史の中の「これから先、少しの未来の間だけ」この蔵を「お借りする」のだと理解し、とすると次の利用者に蔵を良い状態で渡さなければならないと悟った。

こういったいくつかの理由からデザインは必然的に決まっていった。 
全ての外壁から距離をとった1階の建物中心部に白い箱を置く。
白い箱の外側は回遊できる吹抜廊下で、白い箱の内側は水回りとキッチンである。
新しく設置した白い箱は、既存の梁のピッチと位置をずらし、それぞれを独立した存在として位置付けた。設備配管もなるべく外周面に取りつかないよう、最短距離でコアに飛び込ませた。

2階にも再度空間を構築したが、こちらも外壁からは距離をとると同時に、新たに立ち上げる壁を腰高とすることで既存躯体とは基本的に縁を切った設計とした。1階の白い箱の壁面と2階の腰壁ラインも意図的に位置をずらした。とはいえ、1階に新しく設置した白い箱は2階の床荷重を受ける構造補強の役割を担っている。

今の時代、2階の照明を上部の梁や母屋から吊り下げることは簡単であるが、もともとこの蔵には電気が引かれていない。その昔、2階が生活空間(女中部屋だったと想定される)だったときには燭台を用いていたはずだ。そう考えると、もともと存在しなかったものを既存に付加させるのは不純だと感じた。そこで、立ち上げた腰壁の上部に間接照明を設けるとともに手元の照明は(昔の燭台と同じように)スタンドライトを使うことに決めた。

このような照明計画としたのにはもう一つ理由がある。はじめは蔵の中にあるコアを設計していたのだが、次第に蔵とコアの間の抜け方に関心が移っていったからだ。コアの回りの回廊部分である。

既存建物は蔵であるから、窓が非常に少なく、普通に設計すると閉じた暗い印象になってしまう。そこでいかにして自然光を最大限に建物内にまわすか、同時に照明を利用していかに抜け感を与えるかが非常に重要だということに気がついた。

かくして中を設計することが外へ意識をもたらし、外のありかたが中へ大きな影響を与えた。

このことは敷地や使い方においても同様だった。

「セカンドハウスとしての利用」という言葉の中には「大勢の友人たちと集まりたい」という意図が込められていたが、徐々にそれは「知っている人なら自由に使ってもらっても良い」に拡大していった。また、同敷地内に住むクライアントの両親や兄弟家族の利用可能性を聞くうちに更なる開かれた利用の可能性も感じ、またこの家の成り立ちや祖先の話、蔵の歴史を聞いたうえで周辺敷地図を引いてみると、この蔵が集落の丁度中心に位置することがわかった。

蔵の中、家族の中、コミュニティの中を見ていたのがいつのまにか蔵の外、家族の外、コミュニティの外へと広がり、それはクライアントにとっても知らなかった家族の趣味や繋がり、集落の成り方や関係性に気がつく機会となった。

今回の整備をきっかけに更なる想定外の使われ方や出来事が沢山生まれることを願っている。

用途:セカンドハウス
工事種別:リノベーション
設計期間:2015年11月~2017年6月
施工期間:2017年9月~10月
主体構造:木造
階数:2階
改修面積(延べ面積):33.12㎡
所在地:栃木県小山市