2021.11
西千葉地区に新しくうまれたコワーキングスペースである。
もともと事務所として賃貸ししていたスペースがコロナにより空いてしまった事をきっかけに、クライアントは以前から興味を持っていた「場づくり」に着手することにした。学生街であり、文教地区であり、面白い大人も多く集まるこの地区で、多様な世代が集まり人と人がつながる場を作りたいという。(リモートワークが急増したという社会状況も鑑みて)コワーキングスペースをとりあえずの軸とはしたものの、当初からイベントスペースとしての利用や既存の広々としたキッチンを使ったレンタルキッチンやチャレンジショップも構想されていた。そしてそれは、運用開始後も利用方法が状況に合わせて変化していくことを示唆していた。
「可変性を持つこと」と「人と人がつながる場を作る」という二点から、空間自体も希望者とともにワークショップ(以下WS)形式で作り上げていくことにした。作る過程を経験することが壊すことや作り直すことへのハードルを下げることになるだろう、と同時に、施工しながら構造や設備の成り立ち(普段は見られない建物の裏側)を説明することで絶対に壊せない箇所への理解も進むだろう、と考えたからだ。そして、WS形式で施工することを決定したのちに、この現場で使う材料はすべてホームセンターで売っている材料と決めた。一般人でも施工できる納まりとすることも。
WS参加者の皆さんと一緒に作業したからこそ生まれたデザインもある。解体中に軽量鉄骨の下地が表れたとき、参加者から「こうなっているんだ!」という声が上がった。最近では下地をそのままに現すデザインも店舗内装などでよく見かけるので、そういった店舗の写真を見せながら「おしゃれなお店などで見たことありませんか?」と示したが、建築関係者以外にはあれは「下地現し」ではなく「そういうデザインを一から作っている」に見えているのだということをこのとき初めて理解した。
そこで、壁の一般的な表面材である「石膏ボード+クロス」を「透明ハニカムポリカ」に変更した仕上げ箇所を設けた。表面材が失われ軽量鉄骨の下地のみになると、それは途端に表現として認識されるのに、表面材が透明なものに変わると、下地は下地のまま「建築ってこうやって作られているんだね」という反応に変わる。
WSでみんなで作り上げた空間だからこその気付きや驚きをオープン後の利用者とも共有できたらとの思いを込めたデザインが、実際にWSには参加しなかった利用者の気付きにつながっている。
「ものの背後まで考えてみる」という視点はこの空間に相応しく、建築の一要素を通して、世界の出来事など他の事象においても「裏側を想像してみる」きっかけになったら嬉しい。
「ホームセンターで購入できるもの」「作られ方・成り立ちのわかるデザイン」「関係者(使い手)の施工への介入」をコンセプトに進めたこのプロジェクトであるが、それは全て今後のこの場の「使い手による変化」を想定してのものである。自由にメタモルフォーゼしながら軽やかにこの場が続いていくことを願っている。
用途:コワーキングスペース、イベントスペース、レンタルキッチン
工事種別:内装工事
設計期間:2021年3月~6月
施工期間:2021年6月~11月
主体構造:鉄骨造
階数:3階建て2、3階部分
延床面積:108.16㎡(当該範囲)
所在地:千葉県千葉市
写真:佐藤亮介