風の谷の家

2024.04

戸建て住宅のリノベーションである。「住宅」と書いたが、ここにはオリジナルな職住近接のかたちがあり、シェアのかたちがある。

ここで起きていることを文章に認めることは難しい。一つ言えるのは「家」という枠組みを超え、ここが多様な人の集まる場となっているということである。

この建物には「離れ」があり、そこには学習塾が入っている。学習塾はクライアントの友人が賃借りして運営しており、学習塾には小学生から大人まで様々な世代が通っている。塾の生徒とクライアント(母屋の住人)は積極的にコミュニケーションをとるわけではないが、「離れ」は敷地の最深部に位置するため、生徒はおのずと母屋の前(庭の間)を通って塾にアクセスすることとなり、それとなく顔見知りになったり、ときには挨拶を交わしたりもする。

広々とした庭は自然の植生を活かしながらも一部は畑となっていて、そこで野菜を育てている。もちろんクライアントもその畑の面倒を見ているが、「畑をやりたい」という近隣に住む別の友人が頻繁に訪れては世話をしている。植えるものや植える位置もその友人が試行錯誤しながら考えているようだ。

クライアントは飲食業を生業としているため、この建物の中に調理場(住居のキッチンとは別)も用意したが、厨房機器は諸事情によりまだ揃えられていない。そのため、クライアントは製造業の許可が下りている別の居場所とこの場所を行き来して生活している。

なので、クライアントと友人たちが揃って食卓を囲む日もあれば、クライアントしかいない日もあり、はたまた友人しかこの家にいない日もある。

「食卓を囲む」でいえば、クライアントのおいしい料理を食べに集まってくる友人は多く、そのまま泊っていくケースもままある。

こうやって書いてみても、なかなかに伝えるのは難しいが、とてもいい距離感で多様な主体が出入りする大きさと包容力をこの家は持っている。クライアントのスタンスによるところも大きいと思うが、皆それぞれに「居たいときはいるし、居たくないときは来ない(出ていく)」という自由なふるまいをしている。そしてこの「風の谷の家」にいるときもみんなでひとつのこと(話したりゲームをしたりご飯を食べたり)する時間もあれば、それぞれ少し離れた場所をそれぞれの居場所にして好き勝手にしたいことをしているときもある。最低限の協調性とそれぞれの自主性が「ちょうどいい距離感」を生み出している。

多様な選択肢を持つことのできる状況やそのための空間的な広さがあるということはとても贅沢だから、それを言語化しモデル化するのは違うと思うし、簡単にまねできるものではない。

この豊かさは言葉に掬い取られてある枠組みに収斂されてしまうようなものでもない。だから説明するのは難しいが、とても豊かで理想的な「暮らし」がこの家にはあると感じている。

用途:住居
工事種別:リノベーション
設計期間:2021年9月~2022年12月
施工期間:2023年1月~2024年2月
主体構造:木造
階数:2階建て
延床面積:150.42㎡
所在地:千葉県佐倉市
写真:施主による、写真右下に※のあるものは細谷悠太建築設計事務所(10~12、14、16~17、19枚目)